遺産確認の際の当事者
1.あらすじ
被相続人Aの遺産を妻Yと長男B、長女C,三女D,養女Eが相続した。Bが死亡し、Aの遺産を含めてBの妻X1及びBの子X2~X9が、Aの遺産も含めて相続した。
本件土地がAの遺産であることの確認をX1~9がYに対して訴えた。
C,D,Eは、当事者とされていなかった。
(関係図)
AーY
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BーX1 C D E
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X2~9
2.問題となる条文
民事訴訟法40条1項
「訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてその効力を生ずる。
3.判決の中身
遺産分割前の共有関係にあることの確認の訴えで、原告勝訴の場合には、財産が遺産分割の対象である財産であることを確定し、その後は財産の帰属性について争うことを許さないとすることで、相続人の紛争の解決に資する。
このため、遺産の確認の訴えは固有必要的共同訴訟である。
C,D,Eが原告又は被告となっていないので請求棄却。
4.コメント
※固有必要的共同訴訟とは、関係者全員が原告又は被告となることで、はじめて裁判を開くことができる訴訟のこと
本件でいうと、Y,C,D、E、X1~9の全員が原告又は被告となっていることが必要
全員を当事者にしないといけないということは、全員の住所を調べないといけないということだ。住所を調査した結果、行方不明というケースもある。疎遠になっていると非常に大変だ。相続は本当に早く決着させた方がいい。
落石による道路管理の瑕疵
1.あらすじ
国道56号線の高知県の幹線道路であり、高さ約200mの山岳の中腹を切り取って設置した6mの砂利道が本件道路。従来から落石がたびたびあったため、高知県が通行止め等を行ったことがあった。
昭和38年6月13日午後0時頃、道路約77m上方の土壌が、崩壊し、大小20個の岩石が自然落下し、1mの岩石が自動車の助手席に落下し、助手席のAが死亡した。
2.問題となった条文
国家賠償法2条1項
「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責を任ずる。」
3.判例の中身
本件道路は、高知県と中村市方面をつなぐ重要な幹線道路であり、たびたび落石がった。しかし、道路管理者は通行止めの措置等がしつつも、防護柵等の措置をしていなかった。
その防護柵等を設置する費用が多額であると推認できるが、道路の瑕疵による損害を免れるものではない。
国及び高知県の瑕疵が認められた。
4.コメント
高知市から現・四万十市(旧・中村市)への国道56号線の海岸線で起きた事故。これは予見できたと認定されたけど、大雨のとき、どこが土砂災害起きるかわかんないから怖い。
パトカー追跡による第三者の損害
1 あらすじ
パトカーが速度違反の車両を追跡していた。その犯人車両は赤信号を無視して2㎞以上運転しパトカーを振り切ったと考え減速したが、パトカーは時速80㎞で継続して追跡していた。犯人車両は、パトカーを認め、再度赤信号を無視して交差点に進入し、犯人車両が、他の車両に衝突した。
パトカーによる追跡継続等が過失であるとして訴えられた。
1,2審は、追跡中止をすべきであったとして、パトカーの過失を認めた。
2 問題となる条文
警察官職務執行法2条1項
「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断してなんらかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者を停止させて質問することができる。」
3 判例の内容
警察官は、被疑者を追跡でき、その目的のためにパトカーで追跡する職務の執行中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合に、その追跡行為が違法というためには、①追跡が職務執行上必要不可欠か、②被害発生の具体的危険性に照らし、追跡の開始・継続もしくは追跡の方法が不相当かで判断する。
①車両番号を確認していても、氏名等が確認できておらず、逃走する車両に対しては究極的には追跡が必要である。
②格別交通渋滞がなく、午後11時であったこと等からパトカーの乗務員に具体的危険性を予見することができず、パトカーの追跡方法自体も特に危険を伴うものでなかった。
よって、違法でない。
4 コメント
車両番号わかっても、運転している人が誰かわからないから追跡する必要があって、道路状況や時刻、追跡方法から具体的危険性があったといえないみたいである。
もっとも、死者も出ているので、現代社会だと当時以上に批判を受けそうな気がする。警察は犯人も世間も敵ばかりで大変だ。
GPS捜査の適法性
最高裁平成29年3月15日
1.概要
自動車を用いた連続窃盗事件のために、自動車やバイク19台に、令状を発布することなく、GPS端末を取り付け位置情報を取得する捜査を行った。
この捜査によって得た証拠が裁判時に証拠能力を持つのかどうか問題となった。
2 問題となる条文
刑事訴訟法197条1項
「捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることはできない」
3 簡易判決内容
車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付け、位置情報を検索し把握する刑事手続き上の捜査は、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であり、令状がなければ行うことができない強制処分である。
もっとも、GPS捜査に密接に関連しない証拠によって、有罪を認定することができることから、被告人は有罪である。
4 コメント
位置情報って重大なプライバシーに関する情報で、捜査官も捜査のためといって勝手に侵害してはいけない。
といっても、証拠にはできないが犯罪の端緒としてGPS捜査をしている可能性はある。
今は仲間間で、簡単にGPS送れるけど、その仲間は覆面捜査官ではないのか気になるところだ。
公衆浴場の適正配置規制の事件
・最高裁昭和30年1月26日の事件
1.あらすじ
公衆浴場法では、設置場所の配置を都道府県条例で定めるとされていた。
これを受けて、昭和25年9月1日に、福岡県条例54号3条で「公衆浴場の設置の場所の配置の基準は、既に許可を受けた公衆浴場から市部にあっては250メートル以上、郡部にあっては300メートル以上の距離とする」とされた。
Xは、昭和25年5月29日に公衆浴場建設の届出が受理されたが、浴場建設後、上記の条例に違反するため、公衆浴場を営業する許可が受けれなかった。
しかし、Xは、無許可で営業を行い、金5000円の罰金に処せられた。
Xは、上記条例が、職業選択の自由に反すると主張した。
2.問題となる条文
憲法22条1項
「何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」
3.判例の中身
公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要な公共性を伴う施設である。そして、その設立が偏在すると、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用する場合に不便をきたし、公衆浴場が濫立すると、無用の競争を生じ、経営を不合理にさせ、浴場の衛生設備の低下等があることから、国民保健及び環境衛生のため、できる限り防止することが望ましい。
そのため、適正に公衆浴場を配置させ、公衆浴場の経営の許可を与えないことができる規定を設けることは、憲法22条にするものではない。
4.コメント
憲法22条1項は、職業選択の自由を保障している。そのため、公衆浴場の営業という「職業」を選択する自由は、憲法によって保障されている。
しかし、300mの間に公衆浴場があれば、他の公衆浴場は設置できないとする条例(距離制限)があることで、憲法の保障する職業選択の自由が、害されていると主張された裁判。
結果としては、その距離制限は、憲法に反しないとされた。
もっとも、公衆浴場が増えると業者間が競争するので、衛生設備が向上するのではないか等の批判もある判例である。
なお、自家風呂をもってない人が多い昭和30年だから公衆浴場の距離制限をすることもあると思える。しかし、同じように公衆浴場の適正配置が問題となった判例が、最高裁平成元年1月20日、最高裁平成元年3月7日と、ふたつあり、どちらも憲法違反でないとされた。そのため、過去の話とされていない。
ちなみにこの裁判は、もともと福岡地方裁判所吉井支部ってところで行われたものだが、現在の福岡県うきは市で、大分県の県境の市である。
犯人による犯人隠避罪の教唆
・最高裁昭和60年7月3日の事件
1.あらすじ
暴力団員のXが、最高速度40㎞のところを、105㎞で走行した。そのうえ、検挙しようとした警察官の停止指示を無視して逃走した。
その後、Xは、身代わりとして団員Yを出頭させ、Yが犯人であると虚偽の申告をさせた。
2.問題となる条文・文言
刑法103条
「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」
3.判例の中身
犯人が他人を教唆して自己を隠避させたときは、刑法103条の犯人隠避罪の教唆犯の成立を認める。
4.コメント
刑法には、犯人を隠避(隠す行為)することも犯罪としているが、犯人が、自分自身を隠避する行為は、違法行為ではない。
他方、犯人が、他人を教唆(そそのか)して、他の人に隠避行為(ここでは、身代わりとして出頭すること)をさせた場合は、犯人隠避(刑法103条)の教唆(61条1項)罪が成立する。
理由は、犯人自身の隠避行為は、防御の自由の範囲内であるが、他人を教唆してまでその目的を遂げようとすることは防御の濫用であるからである。
ドラマとかだと、暴力団が、もっと凶悪な犯罪で身代わりをたてるケースが多いので、速度違反でわざわざ身代わりたてるのかと思ってしまう。
校庭開放中の事故
・最高裁平成5年3月30日の事件(行政法判例百選(第6版)248)
1.あらすじ
Xらは、5歳10か月の子Aを連れて、一般開放されたY町立の中学校の校庭内でテニスをしていた。
その際、Aが審判台に昇って、背あての鉄パイプを握って後部から降りようとし、審判台がそのまま倒れ、Aが下敷きとなり死亡した。
Xらは、設置管理者であるY町に対し、損害賠償を提起した。
1審(仙台地裁昭和59年9月18日)及び2審(仙台高裁昭和60年11月20日)は、Y町が3割の過失があり、Xらには7割の過失があると認めた。
(☝審判台の一例)
2.問題となる条文
国家賠償法2条1項
「道路、河川その他の『公の営業物の設置又は管理に瑕疵』があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」
3.判例の中身
Xの敗訴、Y町に責任なし。
国家賠償法2条1項のいう、公の営業物の設置又は管理に瑕疵とは、公の営業物が通常有すべき安全性を欠いていることであり、営業物の構造、本来の用法、場所的環境的利用状況等の事情を総合考慮する。
審判台は、審判者がコート面より高い位置から競技を見守るためのものであり、本来の用法に従って使用する限り転倒の危険性を有するものではない。同中学校では、生徒らが使用し、20年の間事故がなかったものである。
幼児がどのような行動に出ても不測の結果が生じないようにせよというのは、管理者に不能を強いるものである。幼児が異常な行動に出ないようにしつけるのは保護者側の義務である。ましては、テニスの競技中にもAの同行に看守すべきであり、それが容易に制止することが可能であった。
4.コメント
公の公共物で、子どもがけがをした場合に、だれが責任を負うのかということが問題となった。
本件の審判台は、これまで事故がなかったこと、子どもの使用方法が異常であったこと、子どもを制止することが容易であったこと等から管理者に責任がないとされた。
中学生のとき、テニスの審判台乗ったことあるけど、意外と高かった記憶がある。子どもが乗ったら危ないものだとは思う。