oitaumare’s diary

気になる裁判例を紹介

公衆浴場の適正配置規制の事件

最高裁昭和30年1月26日の事件

 

1.あらすじ

  公衆浴場法では、設置場所の配置を都道府県条例で定めるとされていた。

  これを受けて、昭和25年9月1日に、福岡県条例54号3条で「公衆浴場の設置の場所の配置の基準は、既に許可を受けた公衆浴場から市部にあっては250メートル以上、郡部にあっては300メートル以上の距離とする」とされた。

  Xは、昭和25年5月29日に公衆浴場建設の届出が受理されたが、浴場建設後、上記の条例に違反するため、公衆浴場を営業する許可が受けれなかった。

  しかし、Xは、無許可で営業を行い、金5000円の罰金に処せられた。

  Xは、上記条例が、職業選択の自由に反すると主張した。

 

2.問題となる条文

  憲法22条1項

  「何人も公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」

 

3.判例の中身

  公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要な公共性を伴う施設である。そして、その設立が偏在すると、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用する場合に不便をきたし、公衆浴場が濫立すると、無用の競争を生じ、経営を不合理にさせ、浴場の衛生設備の低下等があることから、国民保健及び環境衛生のため、できる限り防止することが望ましい。

 そのため、適正に公衆浴場を配置させ、公衆浴場の経営の許可を与えないことができる規定を設けることは、憲法22条にするものではない。

 

4.コメント

  憲法22条1項は、職業選択の自由を保障している。そのため、公衆浴場の営業という「職業」を選択する自由は、憲法によって保障されている。

  しかし、300mの間に公衆浴場があれば、他の公衆浴場は設置できないとする条例(距離制限)があることで、憲法の保障する職業選択の自由が、害されていると主張された裁判。

  結果としては、その距離制限は、憲法に反しないとされた。

  もっとも、公衆浴場が増えると業者間が競争するので、衛生設備が向上するのではないか等の批判もある判例である。

  なお、自家風呂をもってない人が多い昭和30年だから公衆浴場の距離制限をすることもあると思える。しかし、同じように公衆浴場の適正配置が問題となった判例が、最高裁平成元年1月20日最高裁平成元年3月7日と、ふたつあり、どちらも憲法違反でないとされた。そのため、過去の話とされていない。

 ちなみにこの裁判は、もともと福岡地方裁判所吉井支部ってところで行われたものだが、現在の福岡県うきは市で、大分県の県境の市である。